諸石 治之(株式会社IMAGICA EEX 代表取締役CEO兼CCO)

5Gで時空間を拡張・接続しエンターテインメントの地平線を拡大する 諸石治之(IMAGICA EEX 代表取締役CEO兼CCO)
—5GMFミリ波普及推進ワークショップ/日本の産業技術最前線レポート

第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)は、2024年3月にミリ波普及推進ワークショップ「日本の産業技術最前線」の第3回を開催した。幅広く通信業界以外の方とも交流する場を持つことが狙いで、第3回に登壇したのは、IMAGICA EEXと森ビ...

2024/04/01

Posted on 2024/04/01

リアルイベントにおけるエンターテインメントやアートの分野で、5Gに代表されるようなテクノロジーがどのように活用されているのか。第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)は、2024年3月にミリ波普及推進ワークショップ「日本の産業技術最前線」の第3回を開催した。幅広く通信業界以外の方とも交流する場を持つことが狙いで、第3回に登壇したのは、IMAGICA EEXと森ビルの両社。IMAGICA EEX 代表取締役CEO兼CCOの諸石治之と、森ビル株式会社 TOKYO NODE 運営室の杉山 央氏が講演した。レポートの前編は、諸石氏による「リアルとデジタルが融合したエンタテインメントの新たな地平線」の内容を報告する。

2020年からIMAGICA EEXの代表を務めています。自分自身が新しいことが好きなので、クリエイティブと最先端なテクノロジーを組み合わせた事業のプロデュースや、テクノロジーを常にウオッチして超高精細映像、デジタルツインとか、空間演出プロジェクションマッピングなどを組み合わせた新しいエクスペリエンスデザインを担当しています。

諸石治之(IMAGICA EEX 代表取締役CEO兼CCO)

IMAGICA EEX のコンセプトは、未来を考える、未来思考とテクノロジーによって新しい体験を社会にインストールするエクスペリエンスデザイン(XD)、すなわち体験設計を真ん中に置いています。さまざまプロットタイピングからパートナーとともに走りながら社会実装につなげて、社会課題の解決や豊かな未来のデザインを実現することをミッションにしています。事業領域はエンターテイメント、コミュニケーション、ソサイエティの3つです。これらの真ん中にXD、体験設計を置きながら推進しています。

エンターテイメントでもサービスでも作るときに、一番大事なものはイマジネーション、人間の創造力だと考えています。そう考えると、テクノロジーの進化でキャンバスがとても大きくなって表現の幅が広がっているのです。私たちも16対9とか、映画館のスクリーンの中のコンテンツだけではなくて、フレームから開放された豊かで自由な体験のデザインが映像技術と通信技術が融合された世界でできると考えています。

5G/ 6G、IOWNで空間の表現が変化する

そうした映像技術と通信技術の進歩の中でも、5G/6GそしてNTTの次世代コミュニケーション基盤構想のIOWNに代表される通信技術、通信環境が高度化した時代がこれからやってきます。その中で、どんなエンターテイメント、どんな体験が生まれていくのでしょうか。

諸石治之(IMAGICA EEX 代表取締役CEO兼CCO)

5Gそして6Gが生み出す超高速大容量通信や超低遅延、インタラクティブなシチュエーションによる新しい価値の創造へ向かう時代の中で、2022年12月からNTTとIMAGICAグループでIOWN時代におけるリアルサイバー融合空間の表現、演出に関する総合的な検討に着手しています。通信環境がアップデートする中で、表現や演出、コンテンツ、サービスなどをどのようなエクスペリエンスとして社会に発信していくかの取り組みです。

取り組みについて、少し映像を交えながら紹介します。まず12K映像と照明をリアルタイム伝送するライブビューイングです。12K映像と照明と電飾をすべて別の場所から別の場所へ同期しながらトランスポーテーションとなるプロジェクトです。映像だけでなく、照明もライブ会場と同期して伝送することで、離れた場所でも一体感が得られます。プロジェクトでは、実際のアーティストは山形にいて、東京の国際フォーラムのライブビューイング会場に12K映像と照明を伝送しました。

もう1つが日本科学未来館のジオ・コスモスです。ジオ・コスモスは地球のありのままの姿を映し出す、デジタルで表現された球体です。セットなどはなく、空間そのものがメディアになるという取り組みです。

NTTとは連携をもとに、IOWN時代の新しいUI/UXのプレゼンテーションをしています。NTT R&Dフォーラムで、さまざまなデータを使いながら、未来の表現にチャレンジしているところです。これは「TENGUN Ogijimaプロジェクト」というプロジェクトで、瀬戸内海の男木島を点群で全部スキャンしてメタバース空間を作っています。メタバース空間の中をアバターになって入ることで男木島を追体験できます。リアルな形状を残した状態で、フォトリアルなメタバース体験ができます。現在は静止画状態の点群ですが、今後は通信環境やPC・スマホの処理能力が上がれば、この葉っぱが動いたり時間が変化したりといった新しいデジタルツインの世界がつながると考えています。

通常、例えばドームコンサートやホールでのライブとか、前にステージがあって、後ろにお客さんがいて、一方向からライブを楽しんでいる世界だけでなく、新しい演出によって非常に臨場感のある没入型のライブエンターテイメントが世界では生まれているのです。

体験そのものが変化するEXDXで4つの可能性

通信の可能性では、単なる技術の進化ということではなく、自分の体験そのものが変化していると考えています。そのエクスペリエンスデザインをデジタルトランスフォーメーションする「EXDX」ができると感じています。通信がエンターテイメントと組み合わさった世界のキーワードは「時空間拡張」と「時空間接続」の2つだと思います。時間や空間を超えてさまざまなものにアクセスできる、そういったエンターテイメントとか世界が実現できるというふうに考えます。そこで4つの側面から可能性について説明します。

1つが「Live Experience」です。これまでの映像は技術的な限界があって、例えばライブの形式もフォーマット化されていました。こうしたフォーマットから解放できる可能性があると思っています。データが非常に大きすぎて、ライブでは使えないと考えていたような表現や演出を、別の会場と接続することで遅延のないリアルタイムなセッションができていくと考えています。

それは、今いるアーティストとお客さんという関係性だけではなくて、例えば過去に存在していた人物とか過去の人物と時空間を超えたセッションも可能になるということです。自分のアバターや別会場の演者とリアルタイムにセッションする演出も可能な時代がやってくると思います。また、世界の場所と場所がつながるような新しい共演の仕方もあります。東京とドバイがつながったライブやイベントなども、通信技術を使って可能になると考えています。

2つめが「Immersive Live Viewing」です。12Kの映像と照明のライブビューイングを紹介したように、映像だけではなくて、照明や電飾も含めたすべての演出データを伝送して同期したイマーシブ空間を構築するものです。ライブは行きたくてもニューヨークには行きにくいですし、実際のライブに行くことが難しい場合でも、イマーシブなライブビューイングで体験価値を提供できると思っています。

高速大容量超低遅延によって、音楽だけではなくてスポーツなどにも有効だと思っています。特にアメリカのMLBなどでは、ホームのファンがアウェイに行って応援するのはなかなか難しいので、自分のホームの場所にこういった設備が常設されていれば現地に行って応援するだけでなく地元で仲間と一緒に応援するような、そういった体験の選択肢が増えると思います。

3つ目が「Ability Transportation」です。エンターテインメントから離れますが、自分の能力や技、体験を伝送して、低遅延で人に伝えることです。例えばスポーツのプロフェッショナルから学ぶトレーニングなども、遠隔地から同時体験できる形でアップデートされていくのかなと思います。

4つ目が「Digital Twin」です。XRを手掛けるNTTコノキューの「XR City」というアプリケーションの中に、絶滅した古生物を集めてARでリアルな古生物を復元できるアプリ「LOST ANIMAL PLANET」があります。このコンテンツを、ミリ波を使ってアップデートするイベントをNTTドコモと一緒に制作しました。絶滅してしまった動物たちを、映像の技術、通信の技術を使って蘇らせてテーマパークを作ったのです。東京スカイツリーで2023年10月に「XR絶滅動物園」というイベントとして実施しました。特に子どもたちがキラキラした目で恐竜などを体験していました。

諸石 治之(株式会社IMAGICA EEX 代表取締役CEO兼CCO)

有限だった体験が通信技術で無限に

通信×映像の取り組みと世界を4つ紹介させていただきました。エンターテインメントの世界は劇的な変革の中にあることが伝わったでしょうか。最後に、通信技術が社会や世界をどう変えていくのかについてまとめてみました。

先ほど「時空間拡張」と「時空間接続」というキーワードを挙げました。時間を超え空間を超えてつながることについて考えると、私たちは今はかなり物理的な制約の中にあると思います。接続できるその先の時間や場所に依存しているのです。すなわち人間が生きていく限られた時間の中で、体験は有限なのです。そうした体験が通信技術によって無限に広がっていく、つまり、まだ我々が見たことがない世界や現実ではなかなか出会えない世界との遭遇が通信によって可能になることで、体験そのものが変容していく時代が生まれてくると考えています。

それはすごく豊かで、自由な体験で、サスティナブルな社会につながっていく。そういう新しい未来が実現できるようなそういった期待感があります。このリアルとデジタルが融合した新しい世界は、単独ではなかなかできないと思います。競争の関係性の中で様々な領域の方がつながり合いながら、一緒に新しく社会をデザインしていくクリエイティブワークをやっていく。その結果として新しい未来が広がっていると考えています。

そのキーワードは、我々の想像力です。人間の想像力は無限大であり、それが人とつながることによって無限の可能性を生み出していくのです。

諸石 治之(株式会社IMAGICA EEX 代表取締役CEO兼CCO)
諸石 治之
株式会社IMAGICA EEX 代表取締役CEO兼CCO

最先端テクノロジーとクリエイティブを融合した事業のプロデュースやクリエイション。映像と空間を組み合わせた空間演出および体験設計、プロジェクションマッピング、8Kや12K 高精細メディア、XRやデジタルツインなど、クリエイティブとテクノロジーを融合したエクスペリエンスやコミュニケーションをデザインする。

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