藤井 威生(電気通信大学 先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター・教授)

「交通・公共系 5G to 6G」プロジェクト/まずは「信頼性の高い車両の制御」の実現から始めよう―藤井 威生(電気通信大学 先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター・教授)
ODAIBA IX Core/Industrial Transformation(IX)Leaders
産業技術を変革するリーダーたち(No.13)

今回はプロジェクトのリーダーとして、情報通信審議会(総務省)電波有効利用委員会などをはじめとする様々なプロジェクトに関与し、業界を代表する極めて多忙な研究者の一人である藤井 威生氏が就任した。このプロジェクトの方向性とモビリティの未来につい...

2026/01/09

© Shigeru Takeda, Courtesy of Schrodingers.jp / Photograph

Posted on 2026/01/09

XGMFは2026年1月に新しいプロジェクト「交通・公共系 5G to 6G」をキックオフした。このプロジェクトは通信業界の目線からの将来の公共系交通機関のあり方よりも、公共交通機関の当事者がどのような「未来のユースケース」を描いているか、そしてそれに対して通信業界がどのように貢献できる可能性があるかを探ることを重視している。今回、このプロジェクトのリーダーとして、情報通信審議会(総務省)電波有効利用委員会などをはじめとする様々なプロジェクトに関与し、業界を代表する極めて多忙な研究者の一人である藤井 威生氏(電気通信大学 先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター・教授)が就任した。このプロジェクトの方向性とモビリティの未来についてお聞きした。(TeleGraphic 編集部)

まずは「信頼性の高い車両の制御」の実現から始めよう

近年、周波数帯域の枯渇が問題視されていますが、実際には時間的・空間的に利用されていない周波数帯域が多数存在します。そこで、藤井研究室としては有効活用されていない周波数帯域の活用方法として、コグニティブ無線とそれと連動する無線環境データベースに注目しています。このデータベースには、無線環境の様々なパラメータが蓄積されており、コグニティブ無線使用者はデータベースにアクセスすることで、無線環境を認識することが可能となります。また、データベース構築の方法として無線センシングを用いることで、周囲の電波環境の状況の把握や電波環境のパラメータ推定が可能となります。これがそのままITS(Intelligent Transportation System)を利用した交通システムの高度化につながるはず、と考えているわけです。

現在、このITSの主役はやはり「自動車」になるわけですが、ITSにおいて車両同士および通信基地局が相互連携し、協力し合う、と考えたとき、この「車両」はクルマのみならず、鉄道や地下鉄もまた対象になる可能性が高いわけです。さらにモビリティは(自動運転も含め)最終的には個々の様々なタイプの車両の全体最適化になるはずですから、今回のXGMFのプロジェクトも(まずは陸運系からスタートしますが)、近い将来、たとえば船舶なども射程に入れていく必要があるかもしれません。そう考えるとどうしても高速大容量・広域性・低遅延の5G/6G活用が大前提になるんです。

もちろんMaaS(Mobility as a Service)のように、個々の移動ニーズに個別に対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせるという発想も将来は重要になるかもしれませんが、今回のプロジェクトはまずは「信頼性の高い車両の制御を実現するために5G/6Gはどう貢献できるか」から始めるべきでしょうね。この制御という概念には保守も含まれます。実際問題、今、公共交通機関が悩んでいるのは、既存自営無線のコスト・速度の限界からくるサービス・運用の問題、メンテナンスのための技術者不足、さらに保安設備自身のアップデートなどにあると思うんです。

ローカル5Gを活用し、映像伝送した上でAIで解析して検査結果をフィードバックする、という保守の形も一部では実現しつつありますが、それこそまだ「線」でしか展開していない保守をいかに多数のノードで構成されたネットワークに広げていけるかがすぐに重要になるはずです。このときに必要なのが、多数の乗客が車両共に移動するというとこから来る「混雑時における信頼性」という概念です。特に公共交通機関はこの「無線混雑時の信頼性」の実現が肝になってくるので、自家用車とは異なる次元の信頼性の確保が必須になります。

そのためには、車両向け無線ネットワークにおいて車両を追従したミリ波などを用いた高速通信の実現や、それを車内で利用する人へも提供する仕組み、加えて、これらのネットワークを既存のネットワークとどのように共存させるかが重要になることから、どうしても衛星通信システムや5Gシステムも含む周波数共用技術の発展と整備が重要になる。ただ、これは制度と技術で解決できるでしょう。

日本でもダイナミック周波数共用は始まっていますが、先行事例としては米国で利用されているCBRS(Citizens Broadband Radio Service)があります。これは3.5GHz帯(3550~3700MHz)の150MHz幅の周波数帯域で、プライベートLTEや5Gネットワークを共用する仕組みです。従来のWi-Fiでは難しかった広範囲の接続や、工場などでの企業独自のプライベートネットワークを、免許取得なしに低コストで展開可能にし、産業用途やIoTなどで利用が拡大しています。

藤井 威生(電気通信大学 先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター・教授)

© Shigeru Takeda, Courtesy of Schrodingers.jp / Photograph

AIと5G/6Gを利用した「快適の最適化」を実現する

結果として公共交通機関での無線通信の活用に加えて、移動する人への通信提供の快適性も飛躍的に高まる世界が広がるものと思います。いよいよその上で、エンドユーザーの「快適の最適化」を検討するフェーズに入ります。衛星通信などに比べて、やはり地上を走っている車両だからこその強みはあるはずで、たとえばリニア新幹線などの車両に無線環境を提供するには、トンネル区間が多いこともあり航空機での導入が始まっている衛星通信などは非現実的なわけです。一方で、地上を走行しているからこそ、衛星ネットワークでは限界が生じる通信速度には優位性がり、高精細映像を車内で利用するのも夢でありません。このような用途には信頼性の高い5G/6Gが必須です。さらにここではAIが大いに活躍するはずで、(先ほど申し上げた)MaaSがイメージしていた世界、たとえば「もう1本(乗車を)遅らせた方がいいですよ」というAIからのサジェストなどでAI自身がユーザーの行動をより快適になるように制御するようになるはずです。もちろんAIはそのエンドユーザーの快適さを実現するための車両運用へバックキャスティング的に実施するようになるかもしれません。このあたりまで行くと相当エキサイティングですよね。

今回のプロジェクトは来る6Gに向けて、要素技術の研究者・開発メーカ・キャリアによるシーズ側主体の議論だけでなく,ユーザ側(鉄道,道路,その他の公共用途)の視点から,サービス高度化・スマート保守・設備コスト低減に資する6G要素技術、あるいは産業・公共用途に資する6Gサービス形態について検討します。これは結果的に6Gへの要求仕様書になっていく可能性もあります。まずは来る1月15日(木曜)に開催される「公共交通機関が描くモビリティの未来(最先端産業技術と最先端通信技術の融合(IX)ワークショップ(Vol.11)」に参加して下さい。XGMFにしては珍しく「誰もが参加できるワークショップ」になっています。私自身はこの日に海外出張が入っているので参加できませんが、後日また皆さんとお会いできる機会があればいいなと考えています。(談)


XGMF ODAIBA IX core では、来る1月15日(木曜)に「公共交通機関が描くモビリティの未来(最先端産業技術と最先端通信技術の融合(IX)ワークショップ(Vol.11)」を開催します。こちらのページからお申し込みください(XGMF会員限定のイベントではありません。どなたでも参加できます)
(TeleGraphic 編集部)

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