井宮大輔氏・澤井 亮氏

ダイナミック周波数共用技術から次世代IoT通信まで、通信の価値の社会実装を目指す―澤井 亮(ソニー技術開発研究所)/井宮大輔(ソニーネットワークコミュニケーションズ)
ODAIBA IX Core/Industrial Transformation(IX)Leaders
産業技術を変革するリーダーたち(No.12)

オーディオビジュアルやエンタテインメントの印象が強いソニーだが、無線通信の技術開発や社会実装にも古くから力を入れてきている。ソニー 技術開発研究所 ネットワーク&システム技術研究開発部門DSA事業準備室 統括部長の澤井 亮氏と、ソニーネット...

2025/07/29

Posted on 2025/07/29

オーディオビジュアルやエンタテインメントの印象が強いソニーだが、無線通信の技術開発や社会実装にも古くから力を入れてきている。ソニー 技術開発研究所 ネットワーク&システム技術研究開発部門DSA事業準備室 統括部長の澤井 亮氏と、ソニーネットワークコミュニケーションズ 事業開発部門 部門長の井宮大輔氏にソニーと無線通信の関係について話を聞いた。

無線通信の技術でもソニーの底力を発揮

――ソニーグループと無線通信の関係について教えてください。

澤井氏:ソニーグループは、古くから無線通信の技術と事業を手掛けてきました。2012年にエリクソンとの合弁を解消したあとも、しっかりとしたチームを作ってセルラー事業を継続してきました。例えば、私が関わっていた標準化関連では、日米欧中のソニーグループを挙げて3GPPの活動に貢献しています。年間数百件ほどの寄書を提供し、トピックリーダーなどを輩出するように、日本企業として大きな貢献をしていると自負しています。

井宮氏:私はNUROブランドに代表されるようなソニーネットワークコミュニケーションズが提供する商用サービスのビジネスを担当しています。澤井さんはソニーで技術のコアな部分を担当しています。別会社ですが、ワンチームで一緒になって活動しています。

――ソニーの無線通信というとB2Cの印象が強いですが、実際はどうでしょうか。

澤井氏:ソニーグループでは、放送局用のカメラなどの放送ビジネスからスマートフォンや自動車、ロボット、さらにドローンまで、幅広くビジネスを展開してきました。AI関連にも積極的に取り組んでいます。そうした様々なユースケースで、無線の「土管」がどうあるべきか、グローバルのニーズも見ながら技術提案してきました。

澤井 亮氏

ソニー 技術開発研究所 ネットワーク&システム技術研究開発部門DSA事業準備室 統括部長・澤井 亮氏

ソニーというと、どうしてもブロードバンド系や映像系が中心と思われがちです。しかしそれらと並行してIoT系のビジネスにも力を入れていて、IoT向けのチップセットでは高いシェアを持っています。産業用途での通信にも関わりが深いのです。

無線通信の社会課題解決に自社開発したDSA技術を適用

――ソニーグループでは、静的に割り当てられることが一般的な周波数帯を、動的に共用して活用できるようにする技術を開発しています。取り組みについて教えてください。

井宮氏:通信のテクノロジーとして、ダイナミック周波数共用(DSA、Dynamic Spectrum Access)技術を保有しています。最先端の周波数共用技術であり、あらゆる周波数帯をデータベースで一元管理し、電波干渉を抑制しながらリアルタイムで空いている周波数帯を割当てることで、限りある周波数資源を無駄なく最大限活用する技術です。ワイヤレスの通信では、無線という見えないものを相手にしますから、問題があってもわかりません。DSAの技術を使うことで、無線を見える化して最適化できると考えてもらうといいでしょう。

(画像はソニー提供)

――どのような活用の仕方があるのでしょうか。

澤井氏:欧州では、欧州郵便電気通信主管庁会議(CEPT)でテレビ放送のデジタル化で空いた周波数帯(ホワイトスペース)を通信システムで活用するための法制化が進みました。ソニーは放送局が受け入れやすいように、放送と通信で電波を共用しても問題がなく、同時にモバイル通信の利用効率が上がる方式を提案しました。放送機器と通信の双方に実績があるソニーが言うならと、安心してもらった経緯があります。ただし、テレビ周波数帯のホワイトスペースの活用は、通信用のチップセットのベンダーが出てこなかったことなどから、広く利用されるようにはなりませんでした。

一方、米国ではDSAを国としてすでに社会実装しています。CBRS(Citizens Broadband Radio Service)と呼ばれるサービスがそれです。国防総省などが利用する3.55GHz~3.70GHz帯の遊休電波資源を、民間も含めて共用して利活用するものです。CBRSでは、遊休電波資源の利用を専用データベースのSAS(Spectrum Access System)が管理します。SASが周波数帯の利用状況を管理して、ダイナミックに利用可能な周波数帯を割り当てることで周波数の有効利用につなげます。

CBRSにより、米国では免許不要で5GやLTEのプライベートネットワークを構築できるようになりました。3.5GHz帯は汎用的な通信デバイスが対応している帯域で、ホワイトスペースのように対応デバイスが出てこないという問題もクリアしました。DSAが技術的にベースになり、対応基地局が40万局にも上る広がりを見せています。

(画像はソニー提供)

――日本ではどのような展開が考えられますか。

澤井氏:日本では、2.3GHz帯の放送事業用無線局(FPU)のバンドで、DSAの実用化が進んでいます。FPUのバンドは、マラソン中継などのロードレースの報道の中継に使われていますが、いつも全国で使っているわけではありません。DSAにより、放送の帯域を通信で共用できるようにします。2023年から社会実装が始まっています。

井宮氏:DSAによって、ある空間で限られた周波数を共用して利用できるようになります。ネットワークが多層的になっていく実例の1つです。大きなネットワークとプライベートなネットワークが協調して多層化していく形です。工場などで独自のネットワークがほしいときも、他のネットワークとDSAで周波数を共用できれば、シームレスにつながるネットワークが出来上がります。日本は人口減少社会であり、機械化や自動化が避けられません。DSAの技術を使うことで、周波数を共存できるネットワークを作れるようになり、社会課題の解決につなげられると考えています。

井宮大輔氏

ソニーネットワークコミュニケーションズ 事業開発部門 部門長・井宮大輔氏

市場の手応えは様々な国からも感じています。DSAについては面白い技術であり、周波数逼迫というこれまでの課題を解決できるものとして注目されています。例えばドイツでは、インダストリー4.0を実現するための技術としての活用に期待されています。遠隔化、自動化、無線化が求められるすべてのアプリケーションに適用できるためです。

IoTに注力し課題解決の方策の社会実装を目指す

――IoT系のビジネスへの取り組みは。

澤井氏:DSAも産業用途でのネットワーク活用に寄与しますが、ソニーではIoT通信についても取り組んでいます。4G系ではeMTCやNB-IoTなどのIoT向け通信方式がありましたが、5Gになってからは5Gの機能を簡素化したRedCapぐらいしか新しい通信方式がありません。今後のIoT活用に適した通信方式の開発に目をむけているところです。

井宮氏:IoT系はユースケースがまだこれから出てくる分野です。IoTは広範囲に使えることが重要で、そうなるとカバーエリアが広い4G(LTE)に優位性があったりします。IoT用途の通信は5Gを通り越して、6Gに移行するというシナリオも考えられます。

製造業のユースケースはまさにIoT通信ですし、カメラの映像系でもIoT通信が求められています。今は固定されたカメラが多いですが、これが動き出すようになり、自動化して遠隔化すると、容量の大きなIoT通信への要求がさらに高まるでしょう。

――ソニーが解決できることと、周囲を巻き込むことの意味について、考えを聞かせてください。

澤井氏:IoTについては、ビジネスも含めてやってきましたが、今までの反省も含めて6Gに向けてどうするかを考えないといけないでしょう。ソニーだけでなく、通信事業者などと一緒に考えていくことが必要です。これまでのIoT通信の方式は、用途ごとに規格が分散してしまって実際に世の中にどう配するかの視点が欠けていました。ソニーグループとしては、6GではIoT通信のチップビジネスも考えていますが、それだけでなくグローバルな通信事業者と次世代のIoT通信方式をグローバルスタンダードにしていくことも視野に入れています。

井宮氏:ソニーは標準化から社会実装までのプロセスに古くから取り組んできました。CD(コンパクトディスク)などはまさにそうですし、レギュレーションの段階から世の中のためになるものを作り、その技術をエンドユーザーが使うところまで実装していくわけです。これまではコンシューマ向けに生活を便利にすることがソニーの役割でしたが、それをもっと産業界も含めて真っ先に届けるというのは、今後のソニーならではの役割だと感じています。

井宮大輔氏・澤井 亮氏

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